Claude Fable 5 発表—AIが「考える・考えない」を自分で決める「アダプティブ思考」とは何か

2026年6月、米Anthropic社が最新AIモデル「Claude Fable 5」を発表しました。ニュースの見出しは「過去最高性能」ですが、中小企業の経営者にとって本当に注目すべきはそこではありません。このモデルが採用した「アダプティブ思考(Adaptive Thinking)」という仕組み——つまり「どれだけ考えるかをAIが自分で決める」という設計思想です。本コラムでは、この変化が会社のAI活用にとって何を意味するのかを、技術用語を使わずに解説します。

「どれだけ考えるか」は、これまで人間が決めていた

意外に知られていませんが、これまでの生成AIには「思考モード」のスイッチがあり、どれだけ深く考えるかは人間側が事前に設定するものでした。開発者が「この用途では思考に多くの計算量を割り当てる」「この用途では考えずに即答させる」と、あらかじめ決めていたのです。

Claude Code のモデル選択メニュー。Fable 5 を筆頭に9種類のモデルが並ぶ
AI開発ツール「Claude Code」のモデル選択メニュー。Fable 5 を筆頭に9種類のモデルが並ぶ

実際、AIツールの画面には今も「どのモデルを使うか」を選ぶメニューが並んでいます。上の画像はAI開発ツール「Claude Code」のモデル選択画面ですが、9種類ものモデルが並んでいます。速くて安いモデルにするか、遅いが賢いモデルにするか——この見極めは、これまで人間の仕事でした。

この方式には無駄がありました。「今日の日付は?」のような単純な質問にも律儀に深く考えて時間とコストを浪費する。逆に、本当は熟考が必要な難しい相談に、浅い設定のまま薄い回答を返してしまう。質問の難易度と考える量が一致しないことが、AI活用の隠れたコスト要因になっていました。

アダプティブ思考とは——AIが自分で「考える量」を判断する

アダプティブ思考は、この判断をAI自身に委ねる仕組みです。簡単な質問にはほぼ即座に回答し、複雑な問題には「これは考える必要がある」と自分で判断して、じっくり思考してから答える。資料作成やデータ分析のような複数ステップの作業でも、各ステップごとに「ここは考えるべき場面か」を毎回判断します。

最新のClaude Fable 5では、この仕組みが「オプション」ではなく「標準かつ唯一のモード」になりました。人間が思考量を細かく指定する方法は廃止され、残されたのは「全体としてどれくらい力を入れてほしいか」というおおまかな強度設定だけ。「考える・考えない」の判断権は、完全にAI側に移ったのです。

Claude Code の工数(エフォート)スライダー。速い⇔賢いの数段階のみ
残された設定は「工数(速い⇔賢い)」の数段階だけ。思考トークン数のような細かい指定はもうない

上の画像が、その「おおまかな強度設定」の実物です。Claude Code では「工数」と呼ばれ、ダイヤルは「速い ⇔ 賢い」の数段階だけ。思考トークン数のような細かい数字はどこにもありません。人間が伝えるのは方針だけで、実際にどれだけ考えるかは依頼の中身を見てAIが決めます。たとえば——

  • 「この見積書の宛名を株式会社◯◯に直して」——考えるまでもない作業。同じ工数設定のままでも、AIは思考をほぼ挟まず数秒で終わらせます
  • 「過去3ヶ月の売上データを見て、値引きしすぎている取引先がないか分析して」——AIが「これは考える必要がある」と判断し、データの傾向・例外・原因の仮説を自分で検討してから答えを返します

同じAI、同じ設定のままで、依頼の中身によって考える量が自動で変わる。これがアダプティブ思考の実際の動きです。

「考え抜く力」が実務で何を起こすか——2つの実例

「AIが深く考える」と言われてもピンと来ないかもしれません。Anthropicが公式発表で挙げた2つの事例が、その実力を端的に表しています。

AIが巨大な作業を短期間で完了し、画面情報だけでゲームを攻略する様子
左:膨大なコードの書き換えを短期間で完了。右:画面情報だけを頼りにゲームを最後まで攻略
  • 決済大手Stripeのケース——5,000万行という巨大なプログラム(Ruby)の全面的な書き換え作業を、わずか1日で完了。本来ならエンジニアのチーム全体で2ヶ月以上かかる仕事です。Stripeはこれを「数ヶ月分のエンジニアリングを数日に圧縮した」と評価しています。
  • ゲーム「ポケモン ファイアレッド」の攻略——画面のスクリーンショット(視覚情報)だけを頼りに、特別な補助ツールなしで最後までクリア。従来のAIは攻略のために複雑な補助の仕組みを必要としていました。「画面を見て、考えて、次の手を決める」を自力で積み重ねられるようになった、という到達点です。

巨大な業務システムの改修も、手探りの長期戦も、「考え抜く力」がある程度まで人の専門作業を肩代わりし始めている——これが、アダプティブ思考を備えた最新AIの現在地です。(出典:Anthropic 公式発表「Claude Fable 5 and Claude Mythos 5」)

たとえるなら「ベテラン社員の判断力」

新人は一律に対応し、ベテランは即答と熟考を見極めて仕分ける
左:すべてを同じ調子でこなす新人。右:「即答」と「熟考」を見極めて仕分けるベテラン

新人社員は、簡単な問い合わせにも難しい相談にも同じ調子で対応してしまいます。一方、ベテラン社員は「これは即答できます」「これは一晩持ち帰らせてください」を瞬時に見分けます。仕事の価値は、作業の速さだけでなく、この見極めの精度に宿っています。

アダプティブ思考は、AIがこの「持ち帰って考えます」を自分で言えるようになった、ということです。AIの進化はこれまで「どれだけ賢いか」で語られてきましたが、これからは「いつ考えるべきかを正しく判断できるか」という、より仕事の本質に近い軸で評価される段階に入りました。

経営者にとっての意味——コストと品質のバランスが自動化される

これまでのAI活用では、「速いが浅いAI」と「遅いが賢いAI」を用途ごとに人間が選び分ける必要がありました。アダプティブ思考の時代には、一つのAIがタスクごとに自動でバランスを取ってくれます。導入設計の手間が減る、というのが第一のメリットです。

ただし注意点もあります。AIが「考える」と判断した分だけ、処理時間と利用料は増えます。つまり考える価値のある仕事を渡せば深く考えてコストがかかり、考える価値のない仕事には素早く安く答える——人件費と同じ構造が、AIにもそのまま現れるようになったということです。

それでも残る人間の仕事——「頼み方」の設計

AIが考える量を自分で決めるなら、人間は何もしなくていいのでしょうか。むしろ逆です。AIは渡された依頼の中身を見て考える量を決めます。曖昧な依頼は「浅く考えれば十分」と判断され、薄い回答で済まされます。ゴールと判断材料が明確な依頼にこそ、深い思考が発動します。

つまり、AIの性能を引き出す鍵は「何を達成したいのか」「何をもって完了とするのか」を明確に渡す力、すなわち仕事の渡し方に移りました。これは部下への仕事の任せ方とまったく同じスキルです。AI研修の現場でも、操作方法より「依頼の設計」の比重が年々大きくなっています。

中小企業の実務では「即答型」と「熟考型」の配置設計を

もう一つ実務的な視点を加えると、すべての業務を最上位のAIに任せるのはコスト過剰です。アダプティブ思考の考え方は、会社全体のAI配置にも応用できます。

たとえば弊社のフォルダ経営AI「FolderOS」では、日常のボタン操作のような定型処理は社内PCで動くローカルAIが即答し(通信費ゼロ)、朝礼・終礼での経営状況の分析のような熟考が必要な処理だけクラウドの高性能AIに渡す、という二段構えを採っています。「即答すべき業務」と「熟考すべき業務」を見極めて適材適所にAIを配置する——アダプティブ思考と同じ発想を、システム設計のレベルで実践する形です。

社内PCのローカルAIが即答し、クラウドAIが熟考する二層構成
即答が必要な定型処理は社内PCのローカルAI、熟考が必要な分析はクラウドAI——FolderOSの二段構え

補足——同時発表の「Claude Mythos 5」はどうなったのか

今回の発表で見落とされがちなのが、Fable 5 と同じ日に発表されたもう一つのモデル「Claude Mythos 5」です。Anthropicの公式ドキュメントによれば、能力は Fable 5 とまったく同じで、違いはただ一点——「セーフティ分類器(safety classifiers)を外している」こと。危険な依頼を自動的に見分けて断る安全装置を持たない、いわば制限解除版です。

安全装置付きの一般版と、審査を通った専門組織向けの二層提供
安全装置付きで広く提供される一般版(Fable 5)と、審査を通った専門組織だけが使える専門版(Mythos 5)

ただし、誰でも使えるわけではありません。Mythos 5 は一般提供されず、Anthropicが2026年4月に立ち上げた「Project Glasswing」——Amazon、Apple、Google、Microsoft、NVIDIA、Ciscoなど12の主要企業と40以上の組織が参加する、世界の重要なソフトウェアを守るためのセキュリティ・イニシアチブ——の承認を受けた組織だけに提供されます。前身モデルはすでに主要なOSやブラウザから数千件の高リスク脆弱性を発見した実績があり、攻撃者より先に防御側の専門家が弱点を見つけるために使われています。

ここから読み取れるのは、最高性能のAIが「誰にでも同じものを渡す」段階を終えた、ということです。一般企業には安全装置付きの Fable 5 を、審査を通った専門組織には制限解除版の Mythos 5 を。公式ドキュメントにも「Mythos 5 にアクセスできない顧客は、一般提供版である Fable 5 を使ってください」と明記されています。AIの提供そのものが、免許制のような階層構造になり始めた——これも今回の発表が示した大きな変化の一つです。

【出典】Anthropic 公式ドキュメント「Introducing Claude Fable 5 and Claude Mythos 5」(platform.claude.com)/ Project Glasswing 公式ページ(anthropic.com/glasswing
※ 原文では「Claude Mythos 5 shares the same capabilities without the safety classifiers」「Claude Fable 5 includes safety classifiers」「Claude Mythos 5 is not generally available」と記載されています。

まとめ

  • アダプティブ思考とは、質問の難易度に応じて「考える量」をAI自身が判断する仕組み。最新世代のAIでは標準になった
  • AIの評価軸は「どれだけ賢いか」から「いつ考えるべきかを見極められるか」へ移りつつある
  • 人間側の鍵は「仕事の渡し方」。ゴールが明確な依頼ほどAIは深く考える
  • 社内のAI活用も同じ発想で、「即答型」と「熟考型」の業務を見極めた配置設計がコストと品質を両立させる
  • 同時発表の「Claude Mythos 5」は安全装置を外した審査制の専門版。最高性能AIは「一般版」と「免許制の専門版」の二層提供が始まった

AppTalentHubでは、中小企業向けのAI研修と、社内ファイルを活用したフォルダ経営AI「FolderOS」の開発・導入支援を行っています。「自社のどの業務にどのAIを置くべきか」の設計からご相談いただけます。お気軽にお問い合わせください。

参考・出典

※ 本記事は2026年6月10日時点の公式情報に基づきます。価格・仕様・提供条件は変更される場合があります。スクリーンショットはAI開発ツール「Claude Code」のものです。

この記事を書いた人

宮崎翼

愛媛県出身・東京都在住。
国立工業高専(新居浜工業高等専門学校)卒業後、外資系ソフトウェア企業などで法人営業・IT導入支援に従事し、BtoB領域で多様な新規開拓やエンタープライズのDX推進を経験。

現在は「AppTalentHub」の理念、ノーコード/ローコードを活用したアプリ開発の標準化と、エンジニアのスキルの可視化による適正評価を実現するためのプロジェクトやコミュニティ運営に取り組んでいます。
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