「この作業、誰か代わりにやってくれないか」——。
日々の業務でそう感じたことはありませんか?
新しい問い合わせ(リード)が来たらスプレッドシートに転記し、チームのチャットに通知し、お礼のメールを送り…。これらは重要ですが、時間を奪う「作業のための作業」です。
Googleが新たに発表した「Google Workspace Flows」は、まさにこの悩みを解決するために設計された、AI搭載の自動化プラットフォームです 。 (現在2025/11/7 現在まだアルファ版です。)
従来の自動化ツールが「Aが起きたらBをする」という“指示通り”の作業しかできなかったのに対し、Flowsの最大の違いは、AI(Gemini)がプロセスに介在し、文脈を理解し、人間のように「判断」までしてくれる点にあります 。
では、この「賢い自動化」は、一体どのように使い、私たちの仕事をどう変えるのでしょうか? 具体的な使い方と事例に焦点を当てて解説します。
Flowsの作り方:「AIにお願い」するだけ
Flowsは複雑な設定画面やプログラミングを必要としません 。
やるべきことは、AI(Gemini)に対し、普通の言葉(自然言語)で「やりたいこと」を説明するだけです 。
例えば、「毎週月曜の朝9時に、未読メールの要約をChatで送って」と入力すれば、Geminiがその指示を解釈し、必要な「トリガー(毎週月曜9時)」と「アクション(Gmail要約→Chat送信)」を組み合わせたフローの雛形を自動で構築してくれます 。
もちろん、AIに正しく意図を伝えるには、少しコツが必要です :
- 曖昧な指示はNG: 「マネージャーから連絡があったら」ではなく、「
manager@example.comからメールを受信したら」と、具体的なメールアドレスを指定 。 - アプリを明記する: 「タスクを追跡して」ではなく、「メールのアクションアイテムを Google Tasks に作成して」と、使いたいアプリを明記します 。 ファイル名もGoogleドライブの@@と入れた方が良さそう。
【注釈】ただし、利用には「アルファ版」の理解と設定が必要
ここで重要な注意点があります。Google Workspace Flowsは、まだ開発中の「アルファ版」として提供されています 。
1. 利用するには管理者の「ON」設定が必要 アルファ版のため、この機能はデフォルトで「オフ」になっています。利用を開始するには、お使いのGoogle Workspaceの管理者が、管理コンソールにログインし、「Gemini for Workspace の設定」ページで、「アルファ版機能」のトグルを明示的に「オン」に切り替える必要があります 。この設定がOFFのままでは、Flowsを利用することはできません。

GoogleのAdminコンソールからGemini For WorkspaceをONにしましょう。
https://support.google.com/a/answer/14170809?sjid=18302658347195378627-NC

【事例1:最強のユースケース】 問い合わせ対応(リード管理)の完全自動化
この「アルファ版」という点を理解した上で、Flowsの最も強力な活用事例を見てみましょう。Googleのデモでも多用される「顧客対応の自動化」です 。たった一つの「問い合わせ」を起点に、AIが判断業務まで含めて連鎖的に処理を実行します。

▼ 自動化フローのステップバイステップ
- トリガー(きっかけ):
Webサイトの Google Forms から、顧客が「製品の故障」に関する問い合わせを送信します 。 - アクション1:記録
Flowsが起動し、送信された内容(顧客名、連絡先、問い合わせ内容)を Google Sheets の顧客リストに自動で転記(行を追加)します 。 - アクション2:チーム通知
同時に、営業チームの Google Chat スペースに「【至急】新規問い合わせ(製品故障)あり!」と即時通知します 。 - アクション3:AIによる「判断」★ココが革命的
ここからが本番です。Flowsは「Geminiに質問」ステップを呼び出します 。このAIは、フォームの問い合わせ内容(「製品が壊れていた」)と、あなたが事前に用意した「Google Docのルールブック」を照らし合わせます 。- (ルールブックの例: “故障品 = 高優先度”, “配送遅延 = 中優先度”, “使い方質問 = 低優先度”)
- アクション4:インテリジェントな通知
AIはルールブックに基づき「これは高優先度だ」と判断します。そして、Chatの通知に「AI分析:優先度【高】。
内容:製品故障のクレーム」という要約を追記します 。 - アクション5:返信ドラフト
最後に、AIが問い合わせ内容に基づき、「お問い合わせありがとうございます。製品故障の件、承知いたしました…」という一次返信メールを Gmail で自動作成し、担当者が確認・送信できる「下書き」として保存します 。
入力からわずか数秒で、「記録」「通知」「AIによる優先度付け」「返信ドラフト作成」までが完了します。人間が行うのは、AIが下書きしたメールの最終確認だけです。
【事例2:日々の業務ハック】 “受信トレイ”を”タスクリスト”に自動変換
私たちは日々、メール対応に追われています。特に「〜〜さん、これお願いします」といった”依頼メール”の見落としは致命的です。Flowsは、このメール処理も自動化します 。
▼ 自動化フローのステップバイステップ
- トリガー: Gmail で特定の条件のメール(例:差出人が上司、または本文に「要対応」「お願いします」を含む)を受信します 。
- アクション1:AI分析 Geminiステップがメール本文を読み、人間がやるべき「アクションアイテム(タスク)」を自動で抽出します 。(例:「金曜までに資料Aを修正する」)
- アクション2:タスク化 抽出されたアクションアイテムを、Google Tasks に新しいタスクとして自動で作成します 。
- アクション3:メール整理 最後に、Flowsがそのメールに「タスク作成済み」ラベルを付け、受信トレイから自動でアーカイブ(整理)します 。
これにより、メールを「読む」→「タスク管理ツールに書き写す」→「メールを整理する」という一連の手作業がゼロになり、依頼の見落としがなくなります。
【事例3:専門タスクの委任】 AIエージェント「Gems」の活用
Flowsの真価は、単なる自動化ではなく、「Gems」と呼ばれるカスタムAIエージェントを構築できる点にあります 。Gemsとは、特定の知識やルールを学習させた「あなた専用の専門家AI」です 。
▼ Gemsの活用事例
- マーケティング部門の場合: 自社の「ブランドガイドライン」や「過去のキャンペーン資料」をGoogle Docで読み込ませた「マーケティングGem」を作成します 。 自動化フロー: デザイナーが「新しい広告バナー」を共有Driveフォルダに保存(トリガー) → 「マーケティングGem」が起動し、画像とコピーがブランドガイドラインに準拠しているか自動レビュー → 修正が必要な点(例:「このロゴの使用法はガイドライン違反です」)を Google Docs のコメントとして自動で書き込みます 。
- 人事・法務部門の場合: 「就業規則」や「経費精算ポリシー」をGoogle Docで読み込ませた「ポリシーGem」を作成します 。 自動化フロー: 従業員が「経費精算フォーム」を送信(トリガー) → 「ポリシーGem」が起動し、内容が経費精算ポリシー(例:タクシー代の上限)に違反していないか自動でチェック → 問題なければ承認ステップに進み、違反があれば従業員に自動で差し戻します 。
設計思想の違い – Flowsは何が新しいのか?
Workspace Flowsは、自動化市場の「後発」ですが、明確な戦略を持っています。
既存の主要な競合とは、目指す場所が異なります。
- Zapier : 「連携・ハブ型」
6,000以上のアプリを「つなぐ」ことが最大の強みです。AI機能も追加されていますが、基本的にはフローの「部品(ツール)」としてAIを呼び出します 。 - Microsoft Power Automate : 「エンタープライズ・プロセス型」
デスクトップ操作の自動化(RPA)や複雑な業務ロジックの構築に優れ、すでに成熟したプラットフォームにAI(Copilot)が搭載されています 。 - Google Workspace Flows: 「AIネイティブ・エージェント型」を目指しています。
Flowsの設計は、AI(Gemini)がフロー全体を指揮する「頭脳(ブレイン)」となることを前提としています 1。AIが文脈を理解し、自ら判断し、Workspaceアプリ群(Gmail, Docs, Drive)と深く連携してタスクを完遂する。これがGoogleの描く未来像です 。
自動化プラットフォーム戦略比較
| 評価軸 | Google Workspace Flows | Microsoft Power Automate (with Copilot) | Zapier AI |
| 中核思想 | AIネイティブ / エージェント型 | エンタープライズ・プロセス型 / RPA | 連携・ハブ型 |
| AIモデル | Gemini (Gems) | Copilot (OpenAI/GPT) | 複数のモデル選択可 (OpenAI, Anthropic等) |
| 得意分野 | Google Workspaceアプリとの深い連携 | Microsoft 365 / Azure / デスクトップ自動化(RPA) | 6,000以上のSaaSアプリとの「連携数」 |
| 現状の弱み | 機能がアルファ版レベル(ループ、条件分岐、エラー処理が未実装) | 構築の複雑さ、AIの柔軟性 | 高度なロジック、AIが追加機能扱い |
導入最大のハードル「価格」
そして、最も重要なポイントが価格です。
Flowsは現在「Gemini Alphaプログラム」の一部として提供されています。これを利用するための事実上の前提条件は、「Gemini for Workspace」アドオンを契約することです。
つまり、Flowsを利用するための実質コストは、既存のWorkspaceライセンス料に加えて、このAIアドオン料金が発生することを意味します。Googleは、AIによる自動化を基本機能ではなく、高付加価値のプレミアム機能として明確に位置づけているのです 。
まとめ:AIに「作業」ではなく「判断」を任せる未来
Flowsの真の価値は、このAIネイティブな基盤の上に、Googleがロードマップとして提示している「開発者向けの技術的拡張性」が加わる点にあります 。
将来的に計画されている主な技術的進化は以下の通りです:
- Apps Scriptによるカスタムステップ: 開発者が独自のロジックや社内システムとの連携を、Apps Scriptを使って「カスタムステップ」としてFlowsに組み込めるようになります 。
- Workspace Connectors Platform: Jira、Salesforce、Asanaといった主要なサードパーティ製アプリと公式に連携するための、専用コネクタプラットフォームが構想されています 。 現在は、Salesforceのみ(2025/11/7)
- Vertex AI (BYOM) との連携: 企業がGoogle Cloudで独自にトレーニングしたカスタムAIモデルやファインチューニングしたLLMを、Flowsのステップから直接呼び出せるようになります(Bring Your Own Models) 。
結論として、現在のGoogle Workspace Flowsは、単体で見れば「機能が著しく限定されたツール」です。しかし、その技術的評価は、Apps ScriptやVertex AIといった既存の開発者エコシステムとどう融合するかという、将来のロードマップとセットで行う必要があります。
短期的には機能不足が目立ちますが、この「AIネイティブ」な基盤と「プロコード(開発者)」による拡張性が技術的に融合した時、Flowsは単なる自動化ツールを超え、企業のカスタムAI戦略と現場の業務プロセスを結びつける、強力なプラットフォームへと進化する可能性を秘めています。
参考ガイド



