先日、Claude Community Events が主催する勉強会「Claude for Business」(東京・三田)に参加してきました。この記事は、そこでのLT(ライトニングトーク)で知った「ウルトラ」系のコマンドを、聞いて終わりにせず、実際に自社の実務に当ててみた記録です。
AI開発ツール「Claude Code」には、通常より深く・広く仕事をさせるためのこれらのコマンドが用意されています。名前は聞いたことがあっても、どんな場面で効くのか、どのくらい出力が変わるのかは、使ってみないと分かりにくいものです。(Claude Code から別のAIツールを動かす話は、Claude CodeからCodexに指示を出す にまとめています)
この記事では、3種類の使い分けを整理したうえで、弊社が実際に社内の研修カリキュラム教材(全12単元)を改訂した作業を例に、何が起きたかを書きます。結論から言うと、一番の収穫は作業が速くなったことではありませんでした。
この記事で分かること
- 「AIに手分けさせる」とは、具体的に何が起きることなのか
- 手分けさせて効く仕事・効かない仕事の見分け方(4つの条件)
- AIを何体使っても、人間がやるしかない作業は何か
プログラミングの知識は要りません。AIに仕事を任せる立場の方に向けて書いています。
「ウルトラ」系は3つある
1. ultracode — 複数のAIに手分けさせる
指示文のどこかに ultracode と書くだけです。するとAIが単独で作業せず、複数のサブエージェントを並列に走らせる段取りを自分で組み、調査・実装・検証を分担させます。
「複数のAIを立ち上げる」というのが、いちばん分かりにくいところだと思います。普段AIに何かを頼むと、1体のAIが上から順に片づけていきます。ultracode を付けると、AIが「この仕事は7つに分けられる」と自分で判断し、7体の作業役を立ち上げて同時に走らせ、最後に結果を集めて1つにまとめます。こちらがやることは、指示文に一言足すだけです。

徹底的にやる代わりに消費が大きいので、明示的に書いたときだけ発動する仕組みになっています。
2. ultrathink — 1体で長く考えさせる
指示文に ultrathink と入れると、答える前の思考時間を大きく取ります。エージェントを増やすのではなく、1体が長く考えるモードです。設計判断や、原因の見当がつかない不具合の切り分けなど、手を動かす前に詰めたいときに向いています。
3. コードレビュー系のコマンド — 書いたものを厳しく当てさせる
作ったコードを、第三者の目線で通してレビューさせるコマンドです。納品前や、間違うと痛い箇所(決済・権限まわりなど)を含む変更のときに使います。
どう使い分けるか
| やりたいこと | 使うもの |
|---|---|
| 対象が多い・観点が多い作業を網羅的に | ultracode |
| 難しい判断を慎重に考えさせたい | ultrathink |
| 書いたものを厳しく点検させたい | コードレビュー系 |
順番も大事です。まず ultrathink で方針を固め、それから ultracode で実行すると効率がいい。目的が曖昧なまま並列化すると、複数のAIが別々の方向に散って、集約が薄くなります。
なお、ここで扱っているのは同じAIへの「頼み方」の使い分けです。そもそもどのAIモデルを選ぶかという話は、主要AIモデル ベンチマーク徹底比較 で整理しています。
実際にやってみた:12単元の教材改訂
ここからが本題です。弊社では、全12単元の研修カリキュラム教材を改訂する作業を抱えていました。「AIが出してきたものを、受講者が自分で評価・修正する演習」を全単元に足す、という改訂です。
教材の話にピンとこない方は、「似た書式の資料が12件あって、全部に同じ観点で手を入れる仕事」と読み替えてください。店舗ごとのマニュアル、部署ごとの業務手順書、取引先ごとの契約書チェック——構造は同じです。
やり残しリストを、信じないことにした
改訂計画のドキュメントには、残作業として4単元の番号が書かれていました。そのまま着手してもよかったのですが、リストを信じずに実体を数えてみました。教材はHTMLなので、演習ブロックに固有の見出し文字列を検索すれば済みます。
結果、未対応の単元は7つありました。リストより3つ多い。しかも増えた3つのうち1つが、今回の改訂で一番重要な単元でした。リストを信じていたら、それを飛ばして完了にしていたことになります。
ドキュメントは書いた瞬間から古くなります。当たり前の話ですが、自分が数週間前に書いたリストでもこうなる。数えるのにかかった時間は3分でした。
なぜ、この作業を並列化したのか
判断の理由は4つです。この4つのどれかが欠けている仕事に並列化を持ち込むと、だいたい失敗します。
- 対象が独立している — 単元ごとに作業が完結する
- 判定基準が明文化されている — 何をもって完成とするかが決まっている
- お手本が既にある — 完成済みの単元が正解データになる
- 外部待ちがない — 手元の資料だけで完結する

とくに2番が重要です。基準がないまま並列化すると、担当したAIがそれぞれの解釈で作り、集約する側が全部書き直すことになります。
9体に手分けさせた
- 1体:完成済みの単元を読んで、演習の「型」を構造として抽出する
- 7体:型を受け取って、各単元の内容に合った演習を設計する(並列)
- 1体:7案を横断で点検する。褒めるのではなく穴を見つけるのが仕事と明示した

最後の1体が本題でした。
9体目が見つけたもの
7体が出してきた設計案は、正直よく出来ていました。読んでいて「これで進めよう」と思ったくらいです。
そこに9体目が、こう返してきました。「2つの案が根拠にしている前提が、現行のファイルと一致しません」。
調べに行ったら、事実でした。しかも話はそこで終わりませんでした。
この教材には、学習時間を管理している集計表があります。講義の時間と演習の時間を、別々の欄に分けて記録する形式です。ところが数か月前の更新作業で、合計時間を「講義」の欄に書き込み、「演習」の欄を12単元すべて空にしていました。
つまり集計表は、機械的に読むと「講義◯時間・演習0時間」。同じ資料の別の欄には「演習が全体の約8割」と自分で書いてあります。1つの資料の中で、数字と説明文が正面から食い違っている状態でした。
この教材は「手を動かす演習が中心であること」を売りにしています。その根拠になる数字が、集計上はゼロになっていた。外部の人がこの表だけを見れば、説明とは正反対の判断をします。しかも数か月のあいだ、誰も気づいていませんでした。
この状態で新しい演習の時間を足せば、悪化するだけです。教材そのものより先に、集計表を直す必要がありました。
並列化しても、人間がやるしかなかった3つ
1. どの仕事に使うかの見極め
抱えている案件は他にもありました。でもそれらは「決めるべきことが1つだけ」だったり「取引先の返事待ち」だったりで、並列化しても意味がありません。先ほどの4条件を満たしていたのは、この作業だけでした。この見極めは自分でやるしかありません。
「使えるから使う」ではなく「効くから使う」を先に判断する、という点では、話題のGraphRAG、採用しませんでした と同じ考え方です。
2. 出てきた指摘を、自分で確かめること
9体目の指摘を、実際にファイルを開いて1つずつ突き合わせました。結果として指摘は正しかったのですが、確かめる前に信じる気にはなれませんでした。
AIが出してくる「重大な発見」は、それらしく書かれているぶんだけ危ない。とくに今回のように「他のAIの間違いを指摘する」形の出力は、正しければ価値が大きく、間違っていれば方針をまるごと誤らせます。確かめるのにかかったのは10分でした。
3. 着手の順番を決めること
実際には「教材より先に集計表を直す」を最初に置きました。中身をいくら良くしても、管理している数字が壊れていれば台無しになるからです。この優先順位は、締切と経緯を知っている人間の判断でした。
使うときの注意
誤解されやすいのですが、ウルトラ系を使っても回答が何倍も長くなるわけではありません。裏で複数のAIが手分けして調べた結果を、集約して普段どおりの長さで返してきます。違いが出るのは「見落としの量」です。
一方で消費するリソースは単独作業の数倍〜十数倍になります。短い作業や、範囲がはっきりしている修正に使っても無駄です。「全部見きれている自信がない」仕事に当てるのが、いちばん分かりやすい使いどころだと思います。
まとめ
今回の対価は、「一番重要な単元の取りこぼし」と「集計表の矛盾」の2つでした。どちらも、単独で7単元を順番に片づけていたら、まず見つからなかったと思います。順番に進めると目の前の1件に集中してしまい、全体を並べて眺める視点が生まれないからです。
並列化の効果は、速さよりも「横断で見る役」を1体まるごと確保できることにある — これが今回いちばんの学びでした。
そしてその1体には、「褒めるな、穴を見つけろ、落ちたら締切に間に合わない」と書いて投げています。この一文があるかないかで、返ってくるものはかなり変わります。AIに何をさせるかと同じくらい、どういう立場で見させるかが効く、という話でもありました。
今回の学びのきっかけ
冒頭に書いたとおり、この記事の出発点は 「Claude for Business」(東京・三田)でのLTでした。Claudeを使って実際に何かを作っている人が集まる、コミュニティ主催のイベントです。
こうした場のいいところは、公式ドキュメントを読んでいるだけでは出てこない「実際どう使っているか」が聞けることだと思います。今回の「ウルトラ」系コマンドも、機能としては前から知っていましたが、どの仕事に当てると効くのかという肌感は、人の話を聞いて初めてつかめました。
次回の開催も予定されているとのことです。最新情報は イベントページ や上記のコミュニティページでご確認ください。

