私が初めて「要件定義」という言葉を聞いたのは、この仕事を始めたばかりのオンラインミーティングでした。
アプリ開発において要件定義をすることで一番大切なことは無駄なコストを削減出来る事です。しないことにより後に大きな問題になる事やエンジニアと揉めるケースも少なくありません。
アプリやシステムの開発プロジェクトを成功させるには、 「要件定義」 を制することが鍵となります。特に限られたリソースで勝負する中小企業経営者やスタートアップ創業者にとって、要件定義を適切に行うことは大きなコスト削減につながります。要件定義とは何か、なぜ重要なのか、そしてコストを抑えるために経営者がどのように関与すべきかを、具体例を交えながら分かりやすく解説します

要件定義とは、アプリ開発において「何を作るのか」を明確にする工程のこと。どんな機能が必要なのか、誰が使うのか、どんな仕様にするのかを決める、いわば設計の土台となる重要なプロセスです。
最初は「そんなの、話し合えばすぐ決まるのでは?」と思っていました。しかし、調べていくうちに、その奥深さを知ることになります。開発未経験の人にとっても、エンジニアにとっても、要件定義には専門的な知識と経験が求められます。さらに、驚いたのは「要件定義をするだけでも費用が発生する」ことでした。
「まだアプリ開発を始めてもいないのに、もうお金がかかるの?!」と、当時の私は衝撃を受けたのを覚えています。

実際、多くの企業が「要件定義の難しさ」を最初のハードルとして挙げています。特に、ノーコードエンジニアとの連携が初めての企業では、専門用語や開発フローへの理解不足から要件が曖昧になりがち。その結果、開発の手戻りやスケジュールの遅延、コスト超過を招くケースも少なくありません。
本記事では、要件定義がなぜ難しいのか、その背景と解決方法について解説します。
1. 要件定義が難しい主な理由
(1) アプリ開発の全体像が見えにくい
「アプリを作りたい」という大まかなゴールはあっても、必要な機能を具体的に洗い出せていない企業は少なくありません。
- 例: 「予約機能が欲しい」とだけ要望していても、実際には「予約の空き状況をリアルタイムで更新したい」「キャンセル待ち機能が必要」「スタッフのシフト管理と連動したい」など、詳細な仕様が多数存在します。
(2) ノーコードツールに関する知識不足
「プログラミング不要」と聞くと、自由自在に何でも作れるイメージを抱きがちですが、実際にはツールごとの制約やカスタマイズの限度があります。要件定義の段階でそれらを踏まえないと、「後からツールでは対応できない機能」が判明するリスクが高まります。
(3) 既存システムやデータとの連携
既存の顧客管理システムや会計ソフトなどとアプリを連携させる場合、データ形式やAPIの仕様を把握しないまま要件を固めてしまうと、開発途中で大規模な修正が必要になる可能性があります。
(4) コミュニケーションのギャップ
ノーコードエンジニアはツールや開発フローに精通している一方、企業側はビジネスロジックを熟知しています。しかし、両者の共通言語が整っていないと、「完成したがイメージと違う」といったミスマッチが起こりやすくなります。
2.要件定義を適切に行わない場合のコスト増加リスク
要件定義をおろそかにすると、開発プロジェクトでは様々な無駄や手戻りが発生し、結果的にコスト増加を招きます。主なリスクを整理すると次のとおりです。
- 手戻りによる追加コスト: 要件が曖昧なまま開発を始めると、後になって「やっぱりこうしてほしい」と仕様変更が頻発します。要件定義が不十分だとプロジェクト途中で要件変更が生じ、スケジュールの遅延やコストの増加につながるケースが多いのです
。不具合修正についての調査では、仕様の不備に起因するバグをテスト以降の工程で直す場合、そのコストは上流工程(要件定義など)で修正する場合の20倍~200倍にもなるとも報告されています。つまり、最初にきちんと決めなかったばかりに、後から何倍もの費用を払う羽目になるのです。 - 開発の遅延: 要件のブレはそのままスケジュールの遅延に直結します。予定していた機能を作り直したり追加したりするうちに開発期間が延び、リリースが遅れると市場での機会損失にもつながります。社内で関係者の認識が合っていないと後から仕様変更や追加要望が発生し、プロジェクトが予定通り進まなくなる可能性も高まります。納期がずれ込めば人件費などコストもその分増大してしまいます。
- 無駄な機能追加によるコスト浪費: 要件定義をしっかり行わないと、本来必要のない機能までなんとなく作り込んでしまうことがあります。現場の熱意や「念のため」の機能追加が積み重なると、蓋を開ければ使われない機能に多額の費用を投じていた…という事態にもなりかねません。実際、ある調査によればリリースされたシステムの機能のうち約3分の2(64%+19%)はほとんど使われていないという結果もあります。不要な機能開発はまさにコストの無駄遣いであり、明確な要件定義で防ぐべき典型例です。
▼失敗事例: 要件定義を疎かにしたために痛い目を見たプロジェクトも少なくありません。例えば、あるシステム開発では納品直前になってクライアントから「これは私たちの要求とは違う」と指摘される事態に陥りました。(システム開発でも良くありますよね?)
要件の齟齬により大規模な修正が必要となり、追加の工数でプロジェクトは赤字寸前、最悪の場合プロジェクト自体が頓挫しかねない状況だったのです
このように、初期に要件を固めていなかったツケが後から高くつくケースは後を絶ちません。経営者としてプロジェクトのリスク管理をするなら、まず要件定義漏れによる手戻りリスクを徹底的に減らす必要があるでしょう。
3. 要件定義をスムーズに進めるための解決策
(1) ゴールと機能の優先順位を明確化する
- 具体的な質問例:「このアプリで最も大切な機能は何か?」「どの機能がなければビジネスが回らないか?」
- MoSCoW法(Must, Should, Could, Won’t)などの手法を使い、機能の優先順位を可視化すると、開発規模やコストを早期に把握しやすくなります。

(2) モックアップやプロトタイプで早期にイメージを共有
- ツール例: Figma、Sketch、Adobe XD,Canvaなど
ノーコードエンジニアやデザイナーに依頼して、画面遷移やインターフェイスを簡単に確認できるモックアップを作成すると、イメージのすり合わせが容易になります。 - ポイント: 画面単位で「ここをタップするとどうなるか」「どのデータが表示されるか」を具体的に説明できるようにする。
(3) ノーコードツールの得意分野と制限を理解する
- 事前調査が鍵: BubbleやAdalo、Glideなど、ノーコードツールごとに得意とするアプリの種類や機能制限が異なります。
- カスタマイズの要否を検討: どうしても外部API連携や高度な演算が必要な場合、ノーコードではなくローコードや通常開発に切り替える選択肢も念頭に置きましょう。
(4) 既存システムとの連携方法を先に洗い出す
- APIドキュメントの確認: 連携先のシステムにAPIがあるか、どのデータ形式を扱うかをあらかじめ調査し、要件定義の段階で検討材料に含めておきます。
- データ移行のルール整備: Excelで管理しているデータをアプリに移行する場合は、データのフォーマットやクリーニングが必要になるため、想定コストを見積もっておきましょう。
(5) コミュニケーションルールの設定
- 定期ミーティングの実施: 週1回や隔週でオンライン会議を開き、進捗や要件のズレを早期に発見します。
- ドキュメント共有の徹底: 要件定義書や画面仕様書などをGoogleドキュメントやNotionなどでリアルタイムに共有し、誰でも確認・修正できる状態を保つ。
- チャットツールの活用: SlackやChatWorkを活用して、小さな疑問点も早めにやり取りできる環境を整えましょう。
4. まとめ:要件定義がアプリ成功のカギ

要件定義は地味に思えるかもしれませんが、「最初に時間と手間をかけることで、後からの大きな節約につながる」という点で経営者こそ注力すべき重要業務です。要件定義に十分なコストと労力を割くことで、開発中・後の変更や修正を最小限に抑えられ、結果的にプロジェクト全体のコスト削減につながります
アプリやシステム開発では、仕様が固まる前に徹底的に考え抜くことで、無駄な遠回りを避けられます。経営者自らがビジョンを示し、チームと一丸となって要件を練り上げることで、「作りたいもの」と「本当に必要なもの」のギャップを埋め、投資対効果の高い開発が実現できるようになると思います。
お互いの知識や認識の違いをどれだけ早く埋められるかが大きなポイントです。
- 事前にアプリのゴールと必要機能を可能な限り具体化する。
- モックアップや定期的なミーティングでコミュニケーションギャップを埋める。
- ノーコードツールの特性を把握し、必要に応じて他の開発手法も検討する。
- データ連携やセキュリティ、運用面を考慮した上で長期的な視点で要件を固める。
こうしたプロセスを踏むことで、「途中で手戻りが多発して予算超過」「リリースしたけれど使いにくく顧客が離れてしまう」といった失敗を回避できます。アプリ開発を検討中の中小企業は、まずは要件定義の重要性を認識し、ノーコードエンジニアや社内チームと協力して計画を立てていきましょう。